通常学級でできるインクルーシブ教育の手立て10選
インクルーシブ教育というと、特別支援学校や特別支援学級に在籍する児童生徒が対象であると思われるかもしれません。間違ってはいませんが、インクルーシブ教育はすべての子どもたちを包摂する教育ですので、通常の学級に在籍する児童生徒も対象になります。つまり、どの学校、学年、学級においても、日々の授業の中でインクルーシブ教育を意識していく必要があるということです。発達障害・学習困難・外国につながりのある子ども・不登校傾向のある子どもなど、多様な背景を持つ子どもが同じ学級で共に学んでいます。今回は、今日から実践できる工夫を10の視点から紹介します。
紹介している工夫の多くは、特定の子どもだけでなくクラス全体にとって有用なものです。「特別な支援が必要な子どものための配慮」のみではなく「みんなが学ぶ授業」を目指すことが、インクルーシブな授業づくりの基本です。
授業設計
手立て1:授業の始めに「この時間にやること」を視覚的に示す
授業の流れを黒板やスライドに箇条書きで示すことで、見通しを持てないと不安になりやすい子どもが安心して授業に参加できます。「今日は3つのことをします」と伝えてから始めるだけで、大きく変わります。発達障害のある子どもだけでなく、すべての子どもにとって学習効果が上がることが研究でも示されています。
手立て2:指示は短く・ひとつずつ
「教科書の32ページを開いて、3段落目を読んで、問1に答えてノートに書いてください」という複数の指示を一度に出すと、ワーキングメモリに困難のある子どもは途中で指示を忘れてしまいます。指示は1回にひとつ、短い言葉で伝えることが基本です。
手立て3:重要な情報を「聴く」と「見る」の両方で提示する
口頭で説明した内容を黒板にも書く、板書した内容を声に出して読む、といった「二重提示」は、聴覚的な処理が得意な子どもと視覚的な処理が得意な子どもの両方にとって理解を助けます。これはUDL(学びのユニバーサルデザイン)ガイドラインの「情報を認識するための複数の方法をサポートする」にも該当します。
教材・プリント
手立て4:プリントにふりがなを付ける
読み書き困難のある子どもや、漢字の習得が遅れている子どもが、漢字が含まれる文章を読む場合、漢字の形を認識することに多くのエネルギーを使ってしまうことが内容理解の障壁になることがあります。ふりがなのついたプリントを準備し、希望する子どもに選択肢として提供することで、授業のねらいを達成する課題に集中できるようになります。
ふりがなメーカーでプリント準備を効率化
既存のPDFに自動でふりがなを付けることができます。学年別フィルターで対象学年の漢字のみにふりがなを付ける機能もあり、ふりがなをつける作業を大幅に削減できます。
ふりがなメーカーを使ってみる →手立て5:余白を多く・情報量を絞る
情報が詰め込まれたプリントは、視覚的に混乱しやすい子どもにとって読みにくいものです。1枚のプリントに載せる情報量を絞り、余白を多めにとるだけで、読みやすさが大きく改善されます。フォントも明朝体よりゴシック体・UDフォントの方が読みやすい場合があります。
手立て6:板書を構造化する・色を使う
重要な言葉を色チョークで書く、「まとめ」「問い」「答え」などのラベルを付けて板書を構造化するといった工夫は、情報の整理が苦手な子どもの理解を助けます。また、板書のスピードを意識し、消す前に写す時間を十分に確保することも重要です。
評価・テスト
手立て7:評価の基準を事前に明示する
「何ができれば目標達成か」「どんな内容が含まれていれば良いか」をあらかじめ示すことで、見通しのなさに不安を感じやすい児童生徒が安心して取り組みやすくなります。ルーブリック評価(評価基準を段階的に示した表)を使うと、子ども自身が自己評価しながら学習を進めやすくなります。
手立て8:多様なアウトプット方法を認める
作文・レポート・口頭発表・ポスター・動画など、学んだことを表現する方法をひとつに限定しないことで、書くことが苦手な子どもも自分の理解を示せるようになります。可能な範囲で選択肢を用意することがインクルーシブな評価の第一歩です。
学級経営・環境
手立て9:「違いを認める」学級文化をつくる
特定の子どもへの配慮が「えこひいき」と受け取られないためには、日頃から「人はみんな違う、得意・不得意がある」という価値観を学級全体で育てることが重要です。日々の関わり、道徳の時間や学活を活用して、多様性について考える機会を設けることが、インクルーシブな学級文化の基盤になります。
手立て10:「助けを求めていい」雰囲気をつくる
困ったときに「わかりません」「もう一度説明してください」と言える雰囲気は、すべての子どもにとって重要です。特に、自分の困難を自覚しながらも恥ずかしくて言い出せない子どもにとって、助けを求めることが「普通のこと」である学級文化は、安全な居場所になります。教師自身が「わからないことは聞いていい」ことを意識的に伝え、ヘルプ行動を肯定的に評価することが効果的です。
無理なく続けるために
10の手立てを紹介しましたが、すべてを一度に実践しようとする必要はありません。まず「授業の始めに今日の流れを板書する」「指示をひとつずつ出す」など、コストが低く効果が大きいものから始めることとよいでしょう。
インクルーシブな学級づくりは、特定の子どものために「特別な何か」をすることではなく、すべての、そしてそれぞれの子どもにとってわかりやすく・参加しやすい環境を少しずつ整えていくことです。完璧を目指さず、「誰かが取り残されていないか」という視点を持ち続けることが、長く続けるための秘訣です。
まとめ
インクルーシブ教育は、特別な準備や専門知識がなくても、日々の授業・教材・学級経営の中で実践できます。授業の見通しを示す、指示を短くする、ふりがなを付ける、多様なアウトプットを認める——こうした積み重ねが、すべての子どもが主体的に学ぶ環境につながっていきます。